メーカーでモノづくりに携わる人ならば、当たり前に感じる開発プロセスかもしれない。
驚くのは、ここまでしてつくっているのがロケットでも車でもなく、
一脚の椅子だという点だ。
操作がいらないリクライニングチェアーをつくろうと思い立った理由を、
I氏は淡々と話してくれた。
「機能が、使われてなかったんですよね。」
今までのリクライニングチェアーでも、シートはもちろん
ヘッドレストの角度を自由に変えられる物はある。
しかし多くのユーザーは、その操作を行おうとしない。
殊にヘッドレストは買った時の状態のまま、
使う人が自分の首をその角度に合わせている。
これでは本当にくつろげるはずもない。
せっかくの機能をなぜ使わないのだろう?
ユーザーや営業マンに尋ねると、返ってきたのは「難しいから」という答え。
座った姿勢からはヘッドレストに手が届きにくい。
年配者にとっては力がいる。操作手順を覚えるのもストレスだ。何よりも、
「体を休めたくて(リクライニングチェアーに)座るのに、
あれこれ考えたり動かしたくないのは、そりゃあ当然かなと。
もう一つ、背もたれを倒していくと上着がめくれてきたりして、
結局人間がヨイショと座り直すでしょう?あれも何とかしたかった。」
今ある物や機能を、使う人の立場で見つめ直す。究極のくつろぎを目指して、
自社商品も含めて厳しく評価するのがカリモク・スタンダード。
「我々みんな椅子ひとつで人生が変わると思っているし、
ザ・ファーストがあれば実際そうなりますよ。
試作品を家で試してる僕が言うんだから、間違いない。」
入社以来椅子しかつくったことがないしね、と笑うI氏。
カリモクでは、開発担当者自らがユーザーと接する機会もあるという。
どこかで、ザ・ファーストの構造をひときわ生き生きと語る人に出会ったら、
ゼロから手がけたその人かもしれない。
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