「課題といえば、全部が課題でしたよね。」
飄々とした口調で語るのは、カリモクの製品開発担当、I氏。
ザ・ファーストの発案者だ。
ザ・ファースト【当初は新型リクライナーと呼ばれていた】は、
一切の操作なしで座と背、ヘッドレストまで最適な角度に変わる、
かつてないリクライニングチェアー。
当然ながら、開発にあたって真似できる前例などどこにもない。
パーツが連動するしくみをゼロから考えるところからのスタートだった。
初めは段ボールを使って。
「段ボールの2次元模型を、いくつぐらいつくりましたかねぇ。
もう取っておいてもないですが。ここをこう動かすと…なんてやってね。
イケそうだと思ったらCADに落とし込むんですが」
模型で動きを検証し、CAD上で検証。強度などを全て試算した後に
試作へと進む、このフローを繰り返した。
模型を何体つくったか、覚えていられないくらいの回数を。
前例のない製品だけに、あらゆるパーツや部品を一つ一つ新規開発することになる。
素材形状はもちろんのこと、メッキの種類まで様々に試してみなければならない。
「滑りはどうか(滑らかに動くか)、熱を持たないか、あと、軋み音が出でもいけない。」
試作に進んでも今度はカリモク流の、数えきれない厳しい検査項目が待っているのだ。
I氏の言葉を借りれば「つくっては検査で潰す」。
「新型リクライナーに関しては、特に厳しい基準でやったからね。最高峰を目指すわけだから。」
二重にしてスライドさせるという構造に行き着き
実現の目途が立ったのが、新型リクライナー完成のつい1年前。
部品から考え完成状態まで作り上げたにも関わらず
「ザ・ファーストになれなかった試作品」は、50体を超えた。