座れるだけでは意味がない。
エルゴノミクス。人間の生理的・心理的特徴を分析し、人間にとって使いやすい環境設計やモノづくりに生かす研究分野で、人間工学と訳される。
カリモクでは既にモノづくりのベースになっているが、そもそもなぜ一脚の椅子をつくるのにエルゴノミクスまでを究める必要があるのだろうか。
大学の専門機関でエルゴノミクスについて研究しカリモク「座り心地研究」の第一人者となったA氏は、その問いにこう答える。
「椅子は、長い時間座るためのものだから。」
立った状態から腰を下ろせば、その瞬間はどんな椅子でも心地よく感じる。
しかし5分、10分、1時間と座っているうちにどこかが痛くなったり、凝ったように感じたり。
座りっぱなしだとどこかが痛くなるのは当たり前で、多くの人はそういうものだと思っている。
しかしA氏いわく「それでは椅子の意味がないですよね」。
椅子に座るということは、仕事をしたり本を読んだり、無論くつろぐためでもいいのだが、長時間何かをする目的があるはず。
ならば、座っている間中身体に負担がかからないのが理想だ。
その理想を形にするべくカリモクの「座り心地研究」がスタートし、独自の指標「EIS(Ergonomic Intelligent System)」が定められるまで数年。
A氏による地道な、時として孤独な研究の積み重ねがそこにはあった。