第一被験者、自分。
カリモクの敷地内、とある工場棟の一隅。カーテン一枚で仕切られた3畳ほどのスペースがA氏の拠点、すなわちカリモクの「エルゴノミクス研究所」だ。
「会社に戻った当初はこの場所もなくて、事務所の隅や廊下が仕事場でした。
そこで自分でセンサーをつけて椅子に座り、自分自身の身体でデータを取るんです。」
自分自身が被験者となって会社中の椅子という椅子に片っ端から座り、体圧分散、血流の状態といった項目を計測してデータ化していく。
1時間、ただ"ぼんやりと"椅子に座ってデータを測定し、次の1時間は立った姿勢で、身体の状態をリセットする。
また座って1時間測定、その繰り返し。
1日に数セットの測定を実に1年以上は続けたという。
「自分がリラックスしてるな、と感じたとき、あるいは不快だな、ここが痛いな、と感じたとき。それぞれの項目でどんな数値が出ているか確かめるためです。 他の人に聞いたのでは確証が持てませんから。」
自分自身の感覚と、データが示す値を照らし合わせて「快適さ」の指標をつくる。
気の遠くなるような計測作業を続けて指標の大枠が見えてきたら、今度はカリモクのほぼ全部門に被験者になってもらうよう協力を要請した。
計測機器を携えて各事業所を巡り、千人単位のデータを蓄積していくプロセスだ。
心地よさの感覚は、もちろん人によって違う。
しかし膨大な数のデータを分析すれば、多くの人が快適だと感じる数値的な範囲がわかってくる。
その数値を目標にして設計すれば、座った人がまず間違いなく快適だと感じる椅子をつくることが可能になる。
ザ・ファースト開発の土台となる、カリモクEISの誕生だ。