試行錯誤の果てに生まれた奇跡。
ザ・ファースト開発において初挑戦と呼べるのは、内部機構だけではなかった。
全体を支えながらフォルムを優雅に見せている、なめらかな弧を描くドーム型の脚部。
企画開発者が特にこだわったデザインパーツであり、生産現場を大いに苦労させた部分でもある。
「平たい物を曲げるのはよくやるが、3次元の、ドーム型というのはつくったことがない。
カリモク史上でも初の試みだったので…」
ゼロからのスタートはここにもあった。
「基本的には成型合板の技術でつくっていくんですが」
成型合板とは、薄くスライスした木の板を何重にも接着して重ねあわせ、強固な一枚板をつくる、木材加工メーカーの核となる技術だ。
合板、という言葉のイメージに騙されてはいけない。
木材を切り出しただけの板よりも何十倍も強く、また、合板にすることで初めて曲げなどの加工も可能になる。
この技術がなければ、家具など形にできはしない。
樹種、つまり木の種類によって異なる性質を熟知していなければ、どんな素材を何ミリの板にし、どんな接着剤で貼りあわせるかといった判断すらおぼつかないが、カリモクには数十年分に及ぶ成型合板のノウハウがある。それでも、
「木材の種類も色々試しましたし、板の重ね方も、ああでもないこうでもないと」
最終的には、丸太をかつら剥きのように薄く切り出してつくる「単板」に、丸太を横にスライスしてつくる「突板」をかぶせ、形作るという方法に落ち着いた。
貼りあわせた合板に圧力をかけ、ドーム状の型をつけるマシンも、知恵を集めて自分たちで開発したものだ。
「でもねえ、何キロ何トンの圧力が適当かも、いちいち試すしかないしね。
ヒビが入ったり、シワがよったり…」
表面を覆う突板に、何をどうしてもシワがよる。
そのシワがやっと消えたのは、ドームの中心を示す目印に小さな突起をつけたとき。
「狙ってやったことじゃない。その突起が功を奏したのかどうかも、本当のところはわからない」
けれども、理想の形ができたことは事実。小さな奇跡のようだった。
カリモクでは、輸入した木材を選別する時点から、その道のプロの目が光る。
エキスパート同士が全力をつくすとき、理屈を超えた何かが生まれるのかもしれない。