座る人が気持ちよければ、それでいい。
理想の素材は見つかった。
しかし、問題はそれをシートの内部にどう取り付けるかだ。
「最大の課題は、3Dネットのテンションが常に理想的な状態でキープされることです。」
座った状態からチェアーの背もたれを倒していくと、座面と背もたれ、それぞれににかかる重さが変化していく。
重さを受けとめる3Dネットのテンションもそれに従って変化しなければならない。
しかも、自動的に。
この仕組みをリクライニングの機構と並行して形作るために、開発、試作、製造、各部門のエキスパートが集まって知恵を絞った。
「最終的にはバネを使って、(内部の)骨組みに3Dネットを吊りつけてハンモック状にした。でも途中では色々と…」
「(リクライニングの)構造が変われば、ネットの取り付けもやり直し(笑)」
「構造が固まったはいいが、むき出しのままじゃあ商品にならない。
背もたれだって、最後には革や布で覆える状態にしないと。」
開発過程を振り返ってメンバーが口々に語り出す、それぞれの思い。
背もたれ部分の機構はまるごとバックパネルに収めることで解決したが、そのパネルひとつもまた、試作品の発注から納品まで3週間以上。
3年の開発期間はあっという間だったという。
「もう一つ、座り心地にはファーストインプレッションも重要です。
3Dネットに"フュージョン"という素材を重ねて、さらに、ウレタンフォームを最低限必要なだけ、薄く薄く巻きつけた。
柔らかさの演出というか、味付けですね。」
だから、ザ・ファーストは腰を下ろした瞬間からフワリと気持ちよく、どんな角度にリクライニングしても、何かに包まれているように気持ちいいまま。
けれども内部につまった繊細なまでのこだわりに、座る人が気づくことはないだろう。それほど自然な感覚なのだ。
「それでいいんじゃないですか? 座る人が癒されてくれれば。」
何も意識しなくても、知らないうちに一日のストレスが消えている。
そんな椅子を目指したのだからと、メンバーは口を揃えた。